石を積んだだけの擁壁を見て、強度的に心配に感じますよね。
50年以上前には、石積み擁壁(空積み)が多く作られていましたが、現在、申請が必要となる擁壁では使用することができません。
私は、この昔ながら石積み擁壁の土地の上にある住宅に住んでいます。
なぜ、そのような安全性に不安のある土地の上に住宅を建てたのかは今回説明はしませんが、今後も安全に住み続けられるのかとても不安でした。
そこで、今回不安を解消するために思い切って石積み擁壁を補強してみました。
ここでは、私と同じように石積みに不安のある方に向け、我が家の石積み擁壁を補強したときの体験を共有していきたいと思います。
石積み擁壁の補強をした理由
理由は大きく3つあります。
① 大阪・西成の住宅崩落事故
最大の理由は、2021年7月に起きた大阪・西成の住宅崩落事故です。
多くの方がニュースでご覧になったと思いますが、石積み擁壁の上にある住宅2棟が、石積みが崩れたことをきっかけに、十数分のうちに倒壊したという事故です。
その後、石積み擁壁についていろいろと検索していくなかで、新規に申請が必要な擁壁を作る場合、現在の法令ではこのような空積み擁壁は認められていないということを知りました。
つまり、石積み擁壁(空積み)は、現在の法律では「危険な擁壁」と判断されているということです。
今回の西成の事故は、地中から水が流れ出ていたことが事故の原因ではないかと言われています。
当然ですが擁壁には、土圧がかかります。
土の中に水分が多く含まれれば、土圧も高まることになり、石積みが倒壊してしまう可能性が高くなるということです。
② 石垣の隙間から土が漏れ出て、小さな木が生えてきていた
画像は我が家と隣家の石垣の画像です。
我が家側は、梯子を使って石垣を下りて雑草や小さな木を切りましたので、ある程度はスッキリしています。
夏になると様々な植物が生い茂り、虫が多いというのも悩みのひとつでした。
さらに、雑草や木を切ったときに気づいたのですが、石垣の中からかなりの土が漏れ出ている部分がありました。
石と石の間に棒を入れてみると、30cm~40cm奥まで入ってしまうところもありました。
空石積みの危険信号のひとつに「空洞化」がありますが、我が家の石積みはこの危険信号が出ている状況だったのです。
③ 石積み擁壁崩壊で損害保険で補償される可能性が低い
保険会社に相談してみましたが、我が家のケースの場合は地震保険も火災保険も、擁壁が補償されるケースは考えにくいということでした。
まず、地震保険の場合、建物の主要構造部の損害割合によって補償額が決まりますが、擁壁は主要構造部とは見なされないため、擁壁だけが損害を受けた場合には補償対象となりません。
そして、火災保険の水災補償によって擁壁が補償対象になる可能性があるようですが、次の2点のような基準があります。
- 建物(家財)の保険価額に対して30%以上の損害を受けた場合
- 「床上浸水」または「地盤面から45cmを超える浸水」によって損害が生じた場合
これからもわかるように、擁壁そのものだけが崩れた場合には、補償を受けることはできません。
(詳しくは「保険の窓口インズウェブ」をご確認ください。)
そこで、ふと思ったのです。
不幸中の幸いで家は無傷であったとしても石垣が崩れてしまった場合、崩れた石を撤去したり、擁壁を作り直さなければ安心して住み続けることはできません。
擁壁を作り直すとなれば、建物を解体する必要がでてきます。
これだけの費用を保険なしで支払うなんて到底できません。
そうなると、選択肢としては「できる範囲で石積み擁壁を補強する」しかなかったのです。
石積み補強に「モルダム工法」を選んだ理由
擁壁を強化する方法として、「新しく擁壁を作り直す」か「既存の擁壁を補強する」という選択が考えられますが、我が家の場合、新しく作り直すならば家を解体してからでないとできません。
ですので、必然的に「既存の擁壁を補強する」という選択になります。
そして、石積みを補強する方法として、石積み擁壁の外側を鉄筋コンクリートで覆ってしまう方法もあると知りましたが、我が家の場合は石積み擁壁までが境界のため、外側を覆うことはできませんでした。
次に考えたのが、石積みの目地にモルタルを詰めるという方法です。
しかし、石積みの目地にモルタルを詰める方法は、素人考えでもわかりますが、補強と呼べるほどの効果はありません。
雑草対策にはなるかもしれませんが、すぐに割れてくることは容易に想像できます。
しかも、石積みの目地すべてにモルタルを詰めると、擁壁内の排水機能がなくなってしまうため、土圧が上がってしまい、逆に石積みの崩壊の可能性を高めてしまいます。
どうしようか悩んでいたところ見つけたのが「モルダム工法」でした。
- 独自の排水パイプを設置する
- 石垣の目地から接着性の高い専用のモルタルを石の裏側まで流すことで補強する
- 重機などが入れない場所でも作業できる
- 石積みの外側にはみ出さない(境界を侵さない)
- 大がかりな工事でないため、比較的安価
モルダム工法の費用と工期
モルダム工法にかなり興味を持ったのですが、費用感が全くわからず、自分の想像を遥かに上回る金額だったらどうしようと迷っているうちに時間が経過してしまいました。
ネットで検索してみても、施工例はあっても金額の規模感を知ることができませんでした。
そこで、私と同じようにモルダム工法にかかる費用にお悩みの方に参考にしていただけるよう、私の体験を残しておきます。
先ほどお伝えしたとおり、モルダム工法は九州防災メンテナンス株式会社の特許工法です。
しかし、九州防災メンテナンス以外にもモルダム工法を施工してくれる会社は全国にあります。
私の住んでいるエリアでも、対応してくれる業者もいくつかあり、その中から2社から見積もりを取ってみることにしました。
業者名 | 費用総額 | その他 |
---|---|---|
㈱トーラス | 1,210,000円 | 水道代 |
他社X | 1,375,000円 | 電気・水道代 |
※工期に関しては天候にもよりますが、余裕を持って7~10日間程度となっていました。
今回は、株式会社トーラスさんに依頼することにしました。
理由は、費用が安かったからだけではなく、見積もり時に親切丁寧な対応をしてくださったからです。
我が家の石積みが、危険な状態かを伺うと、「立場上そういったことは名言できません」と回答のあと、現状ではハラミなどもないので、緊急性が高いとは思いませんが、余裕のある時に補強されるのが良いと思うとのことでした。
不安を煽るわけではなく、信頼できると感じました。
また、川の対岸から自宅の状況が確認できないので、ドローンを飛ばして撮影して写真を見せてくださいました。
施工後の写真データなども頂けて、トーラスさんお願いして良かったです。
石積み擁壁の補強にモルダム工法はコスパが良い
施工後は、画像のように石同士が強固に接着され、一枚岩に近い状態になりました。
石の隙間から出ていた直径4cmほどの木の枝もなくなり、雑草などに悩ませられることはないでしょう。
石積みの目地をモルタルで埋めてしまいますが、1m間隔で独自の水抜きパイプを入れているので排水も問題ありません。
最も良かったと感じたのは、石積みの内側の空洞部分をモルタルでしっかりと埋めることができたことですね。
(我が家の石積みの危険信号のひとつを解消できたから)
画像のように、深く空洞ができていたので、石の裏側にまで専用のモルタルを詰めることでかなり補強されたのではないかと思います。
足場を設置して、石を斫ったり、目地掃除など、3人で5日間ほどの作業だったことを考えると、妥当な金額ではないかと感じました。
まとめ
石積み擁壁は、現在の法律には適合していない擁壁であるため、可能であれば補強した方が良いでしょう。
その中で、モルダム工法はRC擁壁ほどの強度はでませんが、既存の石積みを使った補強という意味ではかなりの強度アップではないかと思います。
目地を埋めることによる排水を阻害しないよう、十分な本数の水抜きパイプを設置してくれるので排水性も落ちません。
ただ、デメリットというと景観上の見た目でしょうか。
石垣の風情を失くしてしまうなどの意見がネット上ではありましたが、私にとっては生活の安全が優先ですので、特に問題には感じていません。
もしも、災害が起こってしまったとき、保険適用されない可能性が高いことを考えると、100万円強の値段で崩壊予防ができるのであればコスパは非常良いと思います。
石積みの崩落は、地震よりも水害が多いということをお伺いし、水による土圧への影響の大きさを聞いて驚きました。
お話を聞いて、自宅裏の外構は砂利にしていたのですが、急遽別工事でコンクリート土間にし、排水口を作って雨水を外へ流すように変更までしました。
余計な出費になってしまいましたが、家族の安全を考えると正しい判断だったと考えています。